あるか。かうなつてくると、やかましい議論になるが、結局は線の放射する暗示を受け入れるだけの素質と精神活動と知識の再生によるのではあるまいか。鑑賞するに個性が出てくる、從つて蒐集品にも個性が窺へるといふところに、其人々々の感覺と知識とが出てゐるのではあるまいか。
われら萬金の價を以て、よき器物を購ひ得ないことは口惜しいとは思はないでいゝ。われらには割れてゐるこの土瓶の葢一個でも無限の興趣を以て味ひ得る材料を天が與へてくれてゐる。それは葢であらうと、貧乏徳利であらうと、油皿、鰊皿であらうと、土瓶、どんぶり、片口、小鉢の類であらうと、そこに時代から生れた姿があれば先づ鑑賞の第一歩が惠まれるのである。
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釉
【釉】
形が出來た上を裝飾するものは、文樣であり釉である。文樣は土器時代から繩文土器など名づけらるゝやうに色々の文樣がつけられてゐる。また文樣を瓦器に彩色したのもある。漢代の瓦器などに今日でも見受けることが出來る。しかし、やきものは釉に依つて先づ裝飾されてゐる。この釉《うはぐすり》の感じで、器物をわれらに親しませてくれる。釉は形の出來た上を更に美くしくしてくれて、器
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