ば一個の器は過去の文化、交通、民族的交渉――あらゆる方面を考察することの出來る史的標本となる。
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   形

 形――姿。鑑賞の上からいへば形が第一にくる。釉のない土器でも瓦器でも一番に形――姿に惹きつけられる。何よりも先づ形の美くしさが大切である。それは十萬金の茶入であつても、十錢の土瓶であつても。
【時代の生む線】
 この形の線が矢張時代といふものを母胎にもつてゐる。時代が生む線である。たとへば一個の茶わんにしても、支那の宋代に生れ、日本の鎌倉期に渡つたもの、または夫れを摸作したもの、それが禪家喫茶の用になつてゐたのが、茶の湯に使はれ次第に庶民階級の日常雜器になつてきた。その推移をみると明かに初めは天目茶※[#「※」は「上が「夕+ふしづくり」+下が「皿」」、第3水準1−88−72、読みは「わん」、11−2]の形だつたのが變化していつて、時代々々の用途に適ふやうになつてゐる。一個の湯呑にしても今日のやうに湯呑として初めから造られたものかどうか分らない。向附だつたのが離れて筒茶わんとして使はれてゐるのがあるし、又狂言袴といはれる手のやうに筒形の象嵌青磁もあるが、初めから今日
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