のやうに筒茶※[#「※」は「上が「夕+ふしづくり」+下が「皿」」、第3水準1−88−72、読みは「わん」、11−7]を目的として造られたものかどうか――これとて何かの器物だつたのが、用途において轉用されたのかもしれない。要するに日常雜器の所謂安物とて一朝一夕に生れてきたものではない。
【土瓶の葢】
 とにかく、器物の形の發達だけみても面白いものだが、その形が時代を背景にしてゐるといふことを必らず念頭に置いて居れば、十錢の古土瓶をみても、一個の土瓶の葢《ふた》だけ見ても興味が湧くのである。※[#「※」は「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28、12−4]畫(B)圖[#「B圖」省略]は土瓶か壺かの葢に造られたものであらうが、出來が惡かつたとみえて捨てられてゐた。それを古窯發掘の際掘出したものである。この葢一枚に就てみても形のおもしろさはたつぷりある。第一葢をロクロで挽いて、それにうねり[#「うねり」に傍点]をつけ、つまみ[#「つまみ」に傍点]をつけてゐる。このつまみ[#「つまみ」に傍点]一つでも今日の人が平氣で手輕につけるわけにはゆかないほどいゝものである。それを昔の人は平氣で樂に大量につけたのであらう。壺に耳をつけるのでも力のある耳と氣の拔けた耳とあるやうに、簡單なつまみ[#「つまみ」に傍点]一つだけでもうまさ、まづさがある。次いで此の葢の裏を返してみるがいゝ、こゝは高臺を削るのと同じやうに削つてあるが、其の削り方の親切さ、飽くまで深く、ロクロの働きも充分であつて、恰かも宋代のやきものゝ高臺をみるやうな氣がする。土の中から掘り出された一枚の葢でも此の通り見樣に依つては興趣無限、迚も私の筆の及ぶところでない。况んや成器をや。
【糸切】
 以上、葢の形のみについていつたが、我々はこんな一寸したものでも充分樂しめる。是等の葢は萬金の茶入や、水指や、茶わんと共に生産されたものである。それが一は傳世品となつて金殿玉樓の奧に納まり、一は幾百の春秋を雜草の下に埋つてゐたに過ぎない。破片にしても斯くの通りである。所謂名器とても裸にしてしまへば變りはない。破片の糸切のよさも、萬金の茶入の糸切のよさも同じである。こゝに※[#「※」は「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28、14−5]畫(B圖)[#「B圖」省略]を添へておく。この糸切は水滴や
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