る者は残らず珠数繋《じゅずつな》ぎにされて、向うの政府の猟船が出張って来るまで、そこの土人へ一同お預けさ」
「まあ! さぞねえ。それじゃ便りのなかったのも無理はないね」
「便りがしたくたって、便りのしようがねえんだもの」
女は頷《うなず》いて、「それからどうしたの?」
「それから、間もなく露西亜の猟船というのがやって来たんだ。ところが、向うの船は積荷が一杯で、今度は載《の》ッけて行くわけに行かねえからこの次まで待てと言うんで、俺たちはそのまま島へ残されたんだ。今になると残されてよかったので、あの時連れて行かれようものなら、浦塩《うらじお》かどこかの牢《ろう》で今ごろはこッぴどい目に遭《あ》ってる奴さ。すると、そのうちに今度の戦争が押《お》ッ始《ぱじ》まったものだから、もう露西亜も糞もあったものじゃねえ、日本の猟船はドシドシコマンドルスキー辺へもやって来るという始末で、島から救い出されると、俺《おら》はすぐその船で今日まで稼《かせ》いで来たんだが……考えて見りゃ運がよかったんだ。辞《ことば》も何にも分らねえ髭《ひげ》ムクチャの土人の中で、食物もろくろく与《あてが》われなかった時にゃ、こ
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