うして日本へ帰って無事にお光さんに逢おうとは、全く夢にも思わなかったよ」
「そうだろうともねえ、察しるよ! 私も――縁起でもないけど――何《なん》しろお前さんの便りはなし、それにあちこち聞き合わして見ると、てんで船の行方《ゆくえ》からして分らないというんだもの。ああ気の毒に! 金さんはそれじゃ船ぐるみ吹き流されるか、それとも沖中で沈んでしまって、今ごろは魚の餌食《えじき》になっておいでだろうとそう思ってね、私ゃ弔供養《といくよう》をしないばかりでいたんだよ。本当にまあ、それでもよく無事で帰っておいでだったね」
男はこの時気のついたように徳利を揮《ふ》って見て、「ははは、とんだ滅入《めい》った話になって、酒も何も冷たくなってしまった。お光さん、ちっともお前やらねえじゃねえか、遠慮をしてねえでセッセと馬食《ぱく》ついてくれねえじゃいけねえ」と言いながら、手を叩いて女中を呼び、「おい姐《ねえ》さん、銚子《ちょうし》の代りを……熱く頼むよ。それから間鴨《あい》をもう二人前、雑物《ぞうもつ》を交ぜてね」
で、間もなくお誂《あつら》えが来る。男は徳利を取り揚げて、「さあ、熱いのが来たから、一つ
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