八幡様のお引合せとでも言うんだろう。実はね、横浜《はま》からこちらへ来るとすぐ佃《つくだ》へ行って、お光さんの元の家を訪ねたんだ。すると、とうにもうどこへか行ってしまって、隣近所でも分らないと言うものだから、俺はどんなにガッカリしたか知れやしねえ」
「私ゃまた、鳥居のところでお光さんお光さんて呼ぶから、誰かと思ってヒョイと振り返って見ると、金さんだもの、本当にびっくらしたわ。一体まあ東京を経《た》ってから今日までどうしておいでだったの?」
「さあ、いろいろ談《はな》せば長いけれど……あれからすぐ船へ乗り込んで横浜を出て、翌年《あくるとし》の春から夏へ、主に朝鮮の周囲《いまわり》で膃肭獣《おっとせい》を逐《お》っていたのさ。ところが、あの年は馬鹿にまた猟がなくて、これじゃとてもしようがないからというので、船長始め皆が相談の上、一番度胸を据《す》えて露西亜《ろしや》の方へ密猟と出かけたんだ。すると、運の悪い時は悪いもので、コマンドルスキーというとこでバッタリ出合《でッくわ》したのが向うの軍艦! こっちはただの帆前船で、逃げも手向いも出来たものじゃねえ、いきなり船は抑えられてしまうし、乗って
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