お上さん」
「え※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」と若衆も驚いて振り返ると、お上さんのお光はいつの間にか帰って背後《うしろ》に立っている。
「精が出るね」
「へへ、ちっともお帰んなすったのを知らねえで……外はお寒うがしょう?」
「何だね! この暖《あった》かいのに」と蝙蝠傘《こうもりがさ》を畳む。
「え、そりゃお天気ですからね」と為さんこのところ少《すこ》てれの気味。
お光は店を揚《あが》って、脱いだ両刳《りょうぐ》りの駒下駄《こまげた》と傘とを、次の茶の間を通り抜けた縁側の隅《すみ》の下駄箱へ蔵《しま》うと、着ていた秩父銘撰《ちちぶめいせん》の半纏《はんてん》を袖畳みにして、今一間茶の間と並んだ座敷の箪笥《たんす》の上へ置いて、同じ秩父銘撰の着物の半襟のかかったのに、引ッかけに結んだ黒繻子の帯の弛《ゆる》み心地なのを、両手でキュウと緊《し》め直しながら二階へ上って行く。その階子段《はしごだん》の足音のやんだ時、若衆の為さんはベロリと舌を吐いた。
「三公、手前お上さんの帰ったのを知って、黙ってたな?」
「偽《うそ》だよ! 俺はこっちを向いて話してたもんだから、あの時まで知らなかった
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