「そりゃ任せようとも、お前に似てさえいりゃ俺の気に入るんだから」
「およしよ、からかうのは。私のようなこんな気の利かないお多福でなしに、縹致《きりょう》なら気立てなら、どこへ出しても恥かしくないというのを捜して上げるから、ね、今から楽しみにして待っておいでな」
「まあその気で待っていようよ。おいお光さん、談してばかりいて一向やらねえじゃねえか。どうだい酒が迷惑なら飯をそう言おう」
「いえ、もうお飯《まんま》も何もたくさん。さっきから遠慮なしに戴いて、お腹が一杯だから」
「だって、一膳ぐらいいいだろう? 俺も付き合う」
「お前さんはまだお酒じゃないか、私ゃ本当にたくさんなの。それにあんまり遅くなっても……」
「なるほど、違えねえ、新さんが案じてるだろう」
「癪《しゃく》をお言いでないよ! だが、全くのことがね、この節内のは体が悪くて寝てるものだからね」
「そうか、そいつはいけねえな」

     二

 永代橋傍の清住町というちょっとした町に、代物《しろもの》の新しいのと上さんの世辞のよいのとで、その界隈《かいわい》に知られた吉新という魚屋がある。元は佃島の者で、ここへ引っ越して来て
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