お前さんが、そう捌《さば》けて言っておくれだと、私はなおと済まないようで……」
「何がお光さんに済まねえことがあるものか、済まねえのは俺よ。だが、そんなことはまあどうでもいいとして、この後もやっぱりこれまで通り付き合っちゃくれるだろうね?」
「なぜ? 当り前じゃないかね?」
「だって、亭主がありゃ、もう野郎の友達なんざ要《い》らねえかと思ってさ」と寂しい薄笑いをする。
「はばかりさま! そんな私じゃありませんよ」と女はむきになって言ったが、そのまま何やらジッと考え込んでしまった。
 男はわざと元気よく、「そんなら俺も安心だ、お前とこの新さんとはまんざら知らねえ中でもねえし、これを縁に一層また近しくもしてもらおう。知っての通り、俺も親内《みうち》と言っちゃ一人もねえのだから、どうかまあ親類付合いというようなことにね……そこで、改めて一つ上げよう」
 差さるる盃を女は黙って受けたが、一口附けると下に置いて、口元を襦袢《じゅばん》の袖で拭《ぬぐ》いながら、「金さん、一つ相談があるが聞いておくれでないか?」
「ひどく改まったね。何だい、相談てえのは?」
「ほかではないがね、お前さんに一人お上さ
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