ちょっと断っておもらい申すでしたにねえ」
「そりゃ言いましたとも。お世話をしようてのに、年を言わないってことがあるものですか、ほほほほ、何ですよ! 阿母さん」
「大きにね、御免なさいよ。そこらに如才のあるようなお光さんでもないのに、私もどうかしていますね、ほほほほ」と媼さんも笑って、「では、写真を持っておいでなさいましてから、その後まだ何とも?」
「はあ、いろいろ何だか用の多い人ですから……」
「いえね、それならば何ですけど、実はね、こないだお光さんのお話の様子では大分お急ぎのようでしたから、それが今日までお沙汰のないとこを見ると、てッきりこれはいけないのだろうとそう思いましてね。じゃ、まだそう気を落したものでもないのでございますね」と言って、媼さんは空笑《そらわら》いをする。
お光も苦笑いをして、「でも、全くあの時は先方《さき》の口振りがいかにも急ぎのようでしたものですから……いえ、どッちにしてもほかのこととは違いますし、阿母さんの方だって心待ちにしておいでのことは分ってますから、先方が何とも言って来ないからって、それで打遣《うッちゃ》っておいちゃ済みませんわね。私もね、実はもうこないだから、一度向うへ出向こう出向こうとそう思っちゃいるんですけど、ついどうも……何分病人を抱《かか》えてちっとも体が外《はず》せないものですからね」
言われて媼さんは始めて気がついたらしく、「まあ、私としたことが、自分の勝手なことばかり喋《しゃべ》っていて……ほんにまあ、御病人はどんなでおいでなさいますね、まだおよろしくございませんかよ」
「え、よろしいどころなものですか、今日もお医者から……」と言い半《さ》して、お光は何と思ったか急に辞《ことば》を変えて、「何しろ質《たち》のよくない病気なんですもの」
「質がね? それじゃ御病人も何でしょうが、お光さんが大抵じゃございませんね。そんな中へどうも、こんな御面倒な話を持ち込みましちゃ……」と媼さんは何か思案に晦《く》れる。莨《たばこ》を填《つ》めては吸い填めては吸い、しまいにゴホゴホ咽《む》せ返って苦しんだが、やッと落ち着いたところで、「お光さん、一体今度のお話の……金之助さんとかいうのでしたね? その方はどこに今おいででございますね?」
「え、それは霊岸島の宿屋ですが……こうと、明日は午前《ひるまえ》何だから……阿母さん、明日《あし
前へ
次へ
全33ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 風葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング