彫刻家の見たる美人
荻原守衞

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)如《や》うな

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)滿ち/\
−−

 美人彫刻家として有名なのはまづ佛蘭西の、ゼロームを推さねばなるまいが、其彫刻は矢張り端麗とか、優美とかに重きを置いたクラシカルのもので、美人を其まゝ美人として現はしたものは希臘の昔に溯らねばならぬ。希臘には雄壯なることアポロのやうなものもあるが、又ミローや、メディスのヴィナス、デアナの如《や》うな美しい女神もある。
 さて斯かる美人を彫刻せんには、藝術家は何ういふ態度に出づべきものであらうか。豫め自分の心の中に、こんな美人を拵へて見やうと考へて、それに類似したモデルを探してかかるのであらうか。此れが考を要するところである。成程其中には隨分こんな考で以て、やつてる人はないでもない。何うも彼《あ》のモデルは胴がよかつたが頸がわるいので、他から頸を求め、顏は又別のモデルを使つたが、鼻が低かつたもんだから、鼻丈けは又他に求めたといふ風に、寄木細工の樣にして美人の彫刻を出來《でか》した例もないでは
次へ
全6ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
荻原 守衛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング