ムーア式華麗をつくした力作にも等しいような色彩の美や精巧をきわめたたくさんの装飾のために、建築構造の美が犠牲にせられているのを見る。
 茶室の簡素清浄は禅院の競いからおこったものである。禅院は他の宗派のものと異なってただ僧の住所として作られている。その会堂は礼拝巡礼の場所ではなくて、禅修行者が会合して討論し黙想する道場である。その室は、中央の壁の凹所《おうしょ》、仏壇の後ろに禅宗の開祖|菩提達磨《ぼだいだるま》の像か、または祖師|迦葉《かしょう》と阿難陀《あなんだ》をしたがえた釈迦牟尼《しゃかむに》の像があるのを除いてはなんの飾りもない。仏壇には、これら聖者の禅に対する貢献を記念して香華《こうげ》がささげてある。茶の湯の基をなしたものはほかではない、菩提達磨の像の前で同じ碗《わん》から次々に茶を喫《の》むという禅僧たちの始めた儀式であったということはすでに述べたところである。が、さらにここに付言してよかろうと思われることは禅院の仏壇は、床の間――絵や花を置いて客を教化する日本間の上座――の原型であったということである。
 わが国の偉い茶人は皆禅を修めた人であった。そして禅の精神を現実生
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