って不浄になった器は決して再び人間には使用させない。」と言ってかれはこれをなげうって粉砕する。
 その式は終わった、客は涙をおさえかね、最後の訣別《けつべつ》をして室を出て行く。彼に最も親密な者がただ一人、あとに残って最期を見届けてくれるようにと頼まれる。そこで利休は茶会の服を脱いで、だいじにたたんで畳の上におく、それでその時まで隠れていた清浄|無垢《むく》な白い死に装束があらわれる。彼は短剣の輝く刀身を恍惚《こうこつ》とながめて、次の絶唱を詠《よ》む。
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人生七十 力囲希咄《りきいきとつ》 吾《わ》が這《こ》の宝剣 祖仏共に殺す(三七)
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笑《え》みを顔にうかべながら、利休は冥土《めいど》へ行ったのであった。
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     注

番号
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一 『インド生活の組織』―― The Sister Nivedita 著。
二 Paul Kransel 著、Dissertations, Berlin, 1902.
三 陸羽――字は鴻漸、桑苧翁と号した。唐の徳宗時代の人。
四 茶経には一之源、二之具、三之造とある。
五 胡人の※[#「革+華」、第4水準2−92−10]のごとくなる者蹙縮然たり――如[#二]胡人※[#「革+華」、第4水準2−92−10][#一]者蹙縮然。※[#「革+華」、第4水準2−92−10]は高ぐつ。蹙縮は※[#「革+華」、第4水準2−92−10]の針縫いの所のしまり縮まるを言う。
六 ※[#「封/牛」、第4水準2−80−24]牛の臆なる者廉※[#「ころもへん+譫のつくり」、89−9]然たり――※[#「封/牛」、第4水準2−80−24]牛臆者廉※[#「ころもへん+譫のつくり」、89−9]然。※[#「封/牛」、第4水準2−80−24]牛は野牛。廉※[#「ころもへん+譫のつくり」、89−9]は衣装などの裁ち目たたみ目などのそろったさま。これは※[#「封/牛」、第4水準2−80−24]牛の臆《むね》のすじの通ったのを言う。
七 浮雲の山をいずる者輪菌然たり――浮雲出[#レ]山者輪菌然。輪菌は丸くてねじける。雲のたちのぼるさまを言う。
八 軽※[#「風にょう+(火/(火+火))」、第3水準1−94−8]の水を払う者涵澹然たり――軽※[#「風にょう+(火/(火+火))」
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