に通ず。馬若し一歩を誤らば、命はそれ切り也。雨いたり、風さへ強きに、一層心細く感じたりき。
 勝浦より汽車に乘り、大東に下り、大東岬に至る。風益※[#二の字点、1−2−22]甚だし。雨は止みたるが、陰雲漠々、九十九里の濱は見えざりき。この大東の濱邊に筆草生ふと聞きつるまゝに、注意して見たれど、それらしく思はるゝものは見當らざりき。
 大東に引返し、汽車に乘り、一ノ宮に下る。夜既に八時を過ぎたり。海水浴場まで船を雇はむとせしに、波高ければとて、船を出さず。闇中を摸索しつゝ徒歩して、漸く一旅館に投ず。今宵は酒あり。されど風益※[#二の字点、1−2−22]甚しく、大雨加はり、松林叫び、海濤咆哮し、戸鳴り、家動く。惡魔の窟に入りたらむ心地して、世にも不愉快なる一夜なりき。
 翌朝風雨なほ止まず、雨戸を開くべからず。陰鬱慘凄、益※[#二の字点、1−2−22]以て惡魔の窟也。長男又腹痛を起す。されど醉夢ほどには非ず。穩臥靜養して行かずやと云へば、宿屋よりは自家がとて、まだ子供氣の家が戀しく、大雨を衝き、尻に帆かけて、逃ぐるが如くに立ち出づ。宮川の海に入る處、川に小船を浮ぶべく、砂丘偉大にして松林も
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