ひて、沖乘船の目あての森とぞ。春は梅藤の名木、四季の眺め、いとよし。霞ヶ浦、信田の浮島、手に取る如く見ゆ』と。説き得て、勝概をつくせるものと云ふべし。
 げに、霞浦刀水の間、十六島附近の烟霞の趣は、また類ひあるべうも思はれず。仰いで神世の昔、香取、鹿島兩神の雄圖を偲び、眼前の風光、一層ゆかしき心地す。請ふ君、逝いて回らぬ刀水にのぞみて、我が生の須臾なるを嘆ずることをやめよ。明月の下、蘆花雪を吹くのほとり、願はくは、黄塵にけがれたる衣を江上の清風に振ひ、手づから巨蟹を捕へて、扁舟の巾に醉臥せむ哉。
[#地から1字上げ](明治三十四年)



底本:「桂月全集 第二卷 紀行一」興文社内桂月全集刊行會
   1922(大正11)年7月9日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:H.YAM
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年8月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆
前へ 次へ
全5ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング