御告といふことを、まことと思ひて、いよ/\老婆を信じ、甥の爲しゝことにて、他の家内一同の知らぬことなりとて、あやまる。かゝる騷の中に、裏口の農家の主人、きゝつけて來りて曰く、これ迄、鰻をつりて來て、桶に入れ置きけるに、この猫にとられたること、幾回なるを知らず。われにも恨ある猫也。われに下されよとて、箱と共にもち行きて、池に投じて終に之を殺せり。
この夜の出來事は、われ留守中にて、夢にも知らず。われ在らば、甥に恥かゝせじと思へど、せん方なし。たつた一匹の猫にして、かくまでも、多くの人を騷がしければ、死しても恨なかるべし。猫に善惡の念なし。宿なきまゝに、ありとも、十分に食を得ざるまゝに、鷄をかすむ。憎むよりも、むしろ憐れむべし。されど、それよりも、神の御告をいつはる老婆の方が、一層小面にくくして、且つ憐れむべき也。[#地から1字上げ](大正四年)
底本:「桂月全集 第一卷 美文韻文」興文社内桂月全集刊行會
1922(大正11)年5月28日発行
入力:H.YAM
校正:門田裕志、小林繁雄
2009年1月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング