八鹽のいでゆ
大町桂月
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「石+可」、390−1]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)やう/\
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思ふとしもなけれども、思ひださるゝやさしきおもかげの身に添ふ心地して、拂ふに由なく、忘れむとすれど忘られず。かくてはと、われとわが心をはげまして讀むふみの、字はいつしか消えうせて、さながら霞たなびきたるが如くなるに、せめて青山白雲のほとりにさまよはばやと思ひたつも、はかなき旅なり。
武藏と上野との界なる八鹽のいでゆに一夜とまりて、明くる日は、名だゝる三巴石を見むとて、神流川の上流に溯る。わすれては、われを呼ぶ聲かとあやまたれつゝ、うつゝにかへれば、清溪の我が足をかすめて流るゝなり。萬山の底に、幅ひろき釣橋のかゝれるは、幾重の山奧にもなほ人の住む村里あるにや。三巴石の勝は、この橋よりはじまる。みどりにしてあざやかなる巨石磊※[#「石+可」、390−1]として、
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