なきの一事にても、聖徳の一班を仰ぐべし。而してこれこの度の御病の一因となりたるにあらずやと思はるゝにつけても、日本の臣民、誰か感涙に咽ばざらんや。
提燈の光をたよりて、老杉の中の石段を上る。夜氣蕭森として、神聖の地殊に一層神聖なるを覺ゆ。石段を上りつくし、唐門の外に立ち神官の來たるを待つ。あたりは物暗けれども、杉の木立の隙間より、仰いで月魄を見る。さきに湖畔にて見しより一層さやかなるに、いよ/\祈願は成就するなりと、心何となく躍る。石段の下より提燈の光見え初め、暫くして、からん/\と下駄の音聞え初め、又暫くして始めて登り果てたり、これ神官也。一同神官に導かれて拜殿に上り、こゝにて神官に祓ひ清められて、内陣深く進み入り、神官の後ろにひざまづく。蝋燭の光かすかにして、壇上の樣よくは見えず。唯※[#二の字点、1−2−22]神官の右に、偉大なる太鼓ありと見る程もなく。どんと一聲天地の寂寞を破り、大祓の祝詞を讀むの聲、之に和して起る。鼓聲急にして祝詞の聲も急也。さびたる聲にて力あり、人をしておのづから肅然たらしむ。つぎに一同の姓名を讀み上げて、御平癒祈願の詞を陳ぶ。意到り、情盡して、有難しとも
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