りの歸りなりといふ。三人とも親しき仲なり。互に奇遇を喜び、話を肴に、酒くみかはす。執筆の事も氣にかゝれど、今一日のびてもと、腹をすゑたり。
 話次、道別余を戒めて曰く、君の惡詩到る處に惡評を聞く、詩は作るなと忠告してくれよと云ひし人さへあり、奮發して、大いに勉強し給へといふ。われ頷く。來城、壁間に掲げたる余が自作自筆の一軸を見つけて、この詩佳なりといふ。道別、意外なる顏付を爲す。道別は詩を作らざるが、來城は一代の詩人也。來城語をついで、修辭は未だ到らず。道別之に和して、其事々々、作るなら修辭を勉強せよ。余は、よし/\とうなづく。終に大いに醉ふ。來城は、口角泡を飛ばして談論し、道別は、にこ/\笑ひ、余はあひま/\に詩を吟ず。來城は、酒豪也。いかばかり飮みても、玉山倒れさうにも無し。余は翌日再び二日醉をしてはならずと思ふを以て、二人を促して、寢に就きぬ。
 朝起き出でて、小酌するつもりて、三人鼎坐して杯を執る。來城ふと手にせる杯を見て、これは面白き文句なり、盃も、普通一樣のものにあらずといふ。見れば、なる程、厚味ありて、燒きもよささうにて、毫も厭味なく、やゝ黄味を帶びたる白色の外には、たゞ
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