中野あるき
大町桂月

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)木閣《あしば》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)所謂|虚梅雨《からつゆ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ぶら/\
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ことしは、雨の多き年なる哉。春多くふりたり。更に四月の始めに大雪ふりたり。六月に入りて、雹さへ降りたり。この具合にては、梅雨の候は、所謂|虚梅雨《からつゆ》なるべしと思ひしあても、外づれて、大いに降る。降らぬ日とても、陰にくもりて、いつ降り出すかもわからず、思ひ切つて散歩も出來ざりしが、一日、うけあひの天氣となりぬ。鬼の來ぬ間の洗濯、この雨あがりにとて、中野あたりさして、ぶら/\歩く。
中野に三重の塔あり。これ西郊の一名物也。杉の木立に圍まれたる中に、屹然として立つ。最上層の屋根やぶれ、たるき朽ち、下層の屋根には、草生ひ、欅の若木さへ生ひたり。古塔と云はむよりも、むしろ廢塔といふべく、余は、一種の詩趣を覺ゆるまゝに、常に好んで、散歩す
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