るにつれて之を訪へり。さきごろ訪ひし時は、二人の大工、木閣《あしば》をくみたてむとす。聞けば、修繕せむとするなりといへり。その後、一と月あまりを經たり。修繕は、いかばかり捗りしかと、足もおのづから急がれて、來て見れば、修繕まだ其半ばにも及ばざるなり。もとは、第一第二の屋根は、瓦葺にして、第三の屋根は、そぎ葺きなりしが、この度は、石板に葺きかへむとするにや、塔前に石板多くつみかさねられたり。出來上らば、燦然として光るなるべし。されど、余が感じたりし詩趣は、また得べからざる也。石に腰かけ、煙草ふかして、しばし休息す。
 かへるさ、辨天飴の前を過ぐ。山本碧葉、余を見て、座に延く。辨天飴は、中野の一名物也。店頭の辨慶の木像古りて、これも一種の詩趣を帶びたり。碧葉は、俳句をよくす。去年の秋より相識れる仲也。頻に余をもてなし、終に短册を取出して、何か書けといふに、さらば、君の家の看板の辨天を讀み込まむとて、
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梅雨ばれや店の辨天の像光る
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古塔にて、共に何か句をつくらずやとて、
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廢塔のあせし丹塗や夏木立    碧葉
晝顏に拾ふ古
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