べしとて、余らと同じ考え也。
塩谷温泉より数町下りて、左の沢に入り込む。はじめの程は小さき平流なりしが、間もなく渓壑《けいがく》迫りて、薬研《やげん》を立てたるようになり、瀑布連続す。水姓氏は四、五貫の荷物を負えるに、危険なる処に至れば、先んじて登攀して、後より来る者を引き上ぐ。余一行に尾す。急がずして余力を存し、かつ静かに風景を味う也。一瀑を登りしに、また一瀑あり。その間の渓流の中に、孤巌頭を出し、その巌尖に一蛇とぐろを巻く。在来多く蛇を見たれども、そのとぐろを巻けるを見るは、これが始じめて也。珍らしと見入りて、憐れに思いぬ。この蛇|活《い》きてはおるが、半死までの様子となりて、その身もいたく痩せたり。思うに薬研の壑中に陥りて、出るに出られず、食うに物なく、弱り果てて力なき身を渓流の中の膚寸《ふすん》の地に托するものなるべし。空しく死を待つよりは、今一度活路を求めて見よとて、杖にてとぐろを解きて、下の瀑に落しぬ。
渓流二つに分れて、右は狭けれども、水量多く、左は広けれども、水量少なく、傾斜急也。余心の中に右渓を取らざるべからずと思いながらも、一行の左渓を取れるに尾して行くに、果し
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