て絶壁に行きつまる。ともかくもと午食して右渓に下り、瀑また瀑を攀《よ》じ登りしに、終に十余丈の大瀑に行きつまる。これは見事と見とれしが、攀ずべくもあらざれば、引きかえし、右崖を攀じて峰稜を行く。根曲り竹の藪を三時間もかかりて潜り抜け、偃松帯に取付きて、ほっと一と息つく。時計を見れば、午後四時十五分也。そろそろ野宿の用意を為さざるべからず。上り上りて、果して水を得るや否や。数町下に水ある処ありき。上らんか、下らんかと、問いて見たるに、誰れも下ることを肯《がえ》んぜず。水姓氏右手の直径二十町とも見ゆるあたりに、雪田あるを見出し、今夜はあの雪田に水を得て野宿せんという。一同賛成す。水姓氏先んじて、数町ばかり行きしに、水ありありと喜声を発す。うれしや、偃松の林裂けて、幅十間長さ四十間ばかりの小池あり。蛙の子の棲《す》めるを見て、毒水にあらざるを知る。偃松の余したる処、一面の御花畑也。苔桃、巌香蘭《がんこうらん》、岩梅、ちんぐるま草、栂桜、岩髭、千島竜胆《ちしまりんどう》など生いて、池中の巌石にも及べり。偃松の中は、数百千年の落葉つもりつもりて、厚さ三、四尺に達し、これを踏むに、あたかも弾機の如
前へ 次へ
全23ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング