。巨巌の上部に小巌立ちて、あたかも人の子供を負えるが如きもあり。人の立てるが如きもあり。鉾の如きもあり。これはこれはと足を進むるに、一峰直立して、高さは二千尺もあらん。峰の正面は流紋岩の長柱を連ね、その長柱は峰の両側面に及ぶ。余巌峰を見ること多けれども、かくばかり不可思議なる巌峰を見たることなし。驚歎して、腰を石におろし、煙草呑みても、物足らず、一杯を傾けて、山霊に謝す。ああこれ山か。山ならば神※[#「纔のつくり+りっとう」、137−3]《しんざん》鬼斧《きふ》の奥手を尽したる也。昨日層雲峡に入りて、鬼神の楼閣かと思いしも、今日より見れば、まだほんの鬼神の門戸なりし也。
昨日は鬼神の門戸を鬼神の楼閣と思いしが、今日は始めて鬼神の楼閣を見たり。その鬼神の楼閣一下して、墻壁となるかと思われしが、また崛起《くっき》して楼閣を起し、二長瀑を挂《か》く。右なるは三百尺、左なるは五百尺もやあらん。南画も描いて、ここまでには到らずと、またも一杯を山霊に捧ぐ。その楼閣の石柱続きて、尽くる所を知らず。余は見物しつつ行き、二人の人夫は魚を釣りつつ行く。時には遅れ、時には先んず。大箱とて、左右の石柱の絶壁
前へ
次へ
全23ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング