状の節理を成す。奇怪といいても尽さず。霊妙といいても尽さず。ただこれ鬼神が天上に楼閣を造れるかと思わるるばかり也。
その鬼神の楼閣に迎えられ、送られ、近く石狩川の清流に接して、青葉茂れる木下路を行く心持、ああ何にか譬えん。加藤温泉とて、思いがけずも、一軒の家あるに、如何《いか》なる泉質かと鼻にて先ず知りしが、手を入れて、硫黄泉なるを確めぬ。もとは、ほとんど直立せる巌壁を横絶したりけむ、今は丸木橋にて渡りて、間もなく、塩谷温泉に投ず。五里の層雲峡中、人家あるは、加藤温泉と塩谷温泉との二軒のみ也。他にあらば、原始的の粗末なる家なるべきも、ここにては仙家也。熊の皮に迎えられて、炉火に対し、一杯の酒を飲めば、身既に仙化す。温泉は塩類泉にや、硫黄の気の鼻を衝《つ》かぬも、病なき身の疲を医するには、いとうれし。このあたりは河原広く、かつ長く、川の中に巨大なる蓬莱巌ありて、二つの丸木橋にて、彼岸に達すべく巌頭に立てば、大雪山の数峰の頂も見えて、川を見上げ、見下す風致も、浮世のものならざる也。
明くれば一行の外、温泉の若主人塩谷忠氏、画家吉積長春氏加わりて、層雲峡を溯《さかのぼ》る。峰上に奇巌多し
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