きぬ。周回三里ばかりの噴火口を控えたり。その噴火口は波状の平原に連《つらな》れるが、摺鉢《すりばち》の如くには深く陥《おちい》らず、大皿の如くにて、大雪山の頂上は南北三里、東西二里もあるべく、その周囲には北鎮岳、凌雲岳、黒岳、赤岳、白雲岳、熊ヶ岳、など崛起《くっき》し、南に連りて旭岳孤立す。南に少し離れて忠別岳あり、化雲岳あり、その末一段高まりて戸村牛岳となる。その奥右に十勝岳あり、左に石狩岳あり。北は天塩北見界の峻峰群起して我れと高さを競わんとす。気澄まば、旭川も見ゆべく、北海道の東部に雄視せる阿寒岳も見ゆべく、西部に雄視せる羊蹄山も見ゆべく、日本海も見ゆべく、太平洋も見ゆべし。飲める口の水姓氏には酒を分ち、飲めぬ口の塩谷氏には氷砂糖を分ちて、一行二分す。旭川よりの四人は残り、層雲峡よりの五人は下れり。
 残れる四人も北鎮岳に残らむとするに非ず。南に下りて、雲の平を行く。この雲の平のみを以てするも、数十万人を立たしめて、なお余あるべし。白雲岳を目ざして行く程に、濃霧襲い来りて、日も暮れむとす。濃霧やや解けたる方角に雪田あるを見たれば、下りてその雪田に就く。微雨至りければ、天幕を張る。
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