火を熾《さかん》にすれば、雨にも消えざるもの也。今夜も焚火に山上の寒さを忘れたるが、天幕に雨を避くることとて、焚火を掛布団とすることは出来ず。九人が四人に減じて、何となく寂し。殊に我らは天幕を有するも、温泉の連中は天幕を有せず。下りとはいえ、路もなき天下の至険なれば、下ることかえって上るよりも遅く、昨日にぎやかに野宿せしあたりにて、雨に濡れながら夜を明かすなるべしとて、心落付かず。心配しても仕方なしと思いながらも、なお心配せしが、終に疲れて眠れり。
四 大雪山の第三夜
昨日は他所事と思いしに、今日は我らも一足分の草鞋が欠乏しそう也。綱は以て草鞋の経とすべきが、緯になるものは、温泉の連中に与え尽したり。思案するまでもなく、余は六尺|褌《ふんどし》を解く。我もとて、嘉助氏も六尺褌を解く。碧洋と義三郎氏とは解こうとせず。西洋人の真似して、猿股を着けおれるなるべし、猿股にては、緊褌《きんこん》一番ということも出来ず。変に処して、何の役にも立たずと、気焔を吐けど、二氏は何ともいわず、ただ二褌を比べ見て、にやにや笑う。余の褌は新しくして白く、嘉助氏の褌は古くして黒き也。
砂の急斜面
前へ
次へ
全23ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング