次の墓と題する石塔を訪ひ、總寧寺の境内を過ぎ、右に兵營、左に練兵場を見て、國府臺を下り、市川の村はづれより市川橋を渡り、小岩驛より汽車に乘りて歸ることとしけるが、日なほ高ければ、小利根川の右岸を下ること凡そ十町、善養寺一名小岩不動に立寄りて、星下松《ほしくだりのまつ》を仰ぎ、影向松《やうがうのまつ》を撫す。前者は凡そ三抱へ、高く天を衝き、後者は地上より一二丈の處を横に擴がること、凡そ十間四方に及ぶ。二者を合せて、松の奇觀を窮めたり。裸男、幾度も來りて、この松を見たり。『どうだ、一觀の價あらむ』と云へば、いづれも『然り/\』といふ。『抑※[#二の字点、1−2−22]星下松といふ由來は、今より二百四五十年前、星此の松の梢に下り、光ること連夜、終に落ちて石となれるに基づく。かく星の下ることは、當時の住持賢融和尚の高徳の致す所なりと石碑に記されたり』と、裸男先達振つて説明すれば、『昔は星も馬鹿なりき』と、十口坊笑ふ。夜光命も笑ふ、裸男も笑ふ。一陣の薫風、松をゆすつて、松も亦笑ふに似たり。[#地から1字上げ](大正五年)



底本:「桂月全集 第二卷 紀行一」興文社内桂月全集刊行會
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