より中仙道と別れ、左折して川越街道を行く。頃は十一月二十八日也。霜氣天地に滿つ。空晴れて、月明かなるが、向ひ風寒く且つ鋭くして、面痛く、體を進むるに勞多し。歩けば暖まれど、一寸休息すれば、忽ち寒戰す。夜光命、十口坊、裸男の外、四五人加はりて、幹部となり、一行に殿す。幹部と云へば立派に聞ゆれど、實は老廢の連中也。歩行緩慢にして、而も休息することしきり也。之に反して、新進氣鋭の士は、どし/\疾歩す。嗚呼人生老いたくは無きもの哉。
白子を過ぎて、膝折に至れば、牛山八一郎氏來り加はる。氏は膝折の人、その家、路傍に在り。一行の爲に湯茶を供し、火を焚いて暖を取らしむ。我等火にあたり、携へたる握飯を食らひて、ほつと一と息つく。我等の殿軍が到着したる時は、前軍既に休みあきて、進發しかけたる時なりき。殿軍は午後十二時となりて發足す。
夜はます/\更けゆく。寒さはます/\加はる。疲勞もます/\加はる。而して休息することも益※[#二の字点、1−2−22]しきり也。上弦の月いつしか沒して、星斗闌干たり。風は依然として鋭し。四五町ゆくかと思へば休み、又四五町ゆくかと思へば、又休む。歩けば足は苦しけれど、身體
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