》川を過ぎ、右手に海を見るに及びて、頓に目覺むる心地す。顧みれば、空一面に赤く、恰も遠方の火事の如し。されど火事には非ず。さすがは東京なり。滿都の電燈の光、七八里隔たりても、斯ばかり明かに見ゆる也。行手は唯※[#二の字点、1−2−22]眞つくらにて、千葉の所謂『光』は見えざれども、最早遠からず。裸男少年に向つて、『これから千葉まで走らずや』と云へば、『走らむ』といふ。さらばとて、共に走る。凡そ十町ばかりも走りけむ、『先生やめて下され。さつき走りし疲れもあれば、もう走れず』といふに、走ることを止めて、殿軍と一所になり、千葉の町に入りて、定めたる旅店に著きしは、恰も午前四時、最先着者より後るゝこと二時間也。
朝食の後、裸男演説して、一同ひと先づ解散す。更に幹部、其他の有志と共に千葉中學校に至りて演説す。師範學校の生徒も來り聽けり。千葉中學校の校長は海鹽欽衛といふ人也。我等の爲に導をなして猪鼻臺に上る。千葉氏代々の城址にして、千葉第一の遊覽地、老松參差として、千葉の市街に俯す。東京灣※[#「水/(水+水)」、第3水準1−86−86]茫として盡くる所を知らず。富士山は霞にかくれ、鹿野山は淡く
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