千川の櫻
大町桂月
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小金井の山櫻の區域盡きて、境橋架れる處より、玉川上水分派し、練馬驛、東長崎驛を經て、板橋に入る。これを千川上水と稱す。大正四年、この上水べりに櫻と楓との若木を植ゑ付けたりと聞く。さても花の名所の増加すること哉。
大正五年四月十日、風強し。花の都變じて塵の都となる。庭の樹空に舞ひ、障子がた/\動きて止まず。裸男生來風が大嫌ひ也。このやうに風の吹く日は、頭をかきむしらるゝ心地して、筆とること能はず。布團被つて寢むか、消極的也。むしろ積極的に家を出でて、風と鬪はむ哉。
池袋より電車に乘りて、板橋驛に下る。この驛を過ぐる者、試みに東方を見よ。數十間の彼方に、高き石塔あらむ。これ幕末の際、新選組の二頭領なりし近藤勇と土方歳三との墓也。二人ともに多摩川畔の農家に生れたるが、起つて劍を執つて幕府に盡し、勇は捕へられて、此の地に殺され、歳三は函館に討死せり。順
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