菅の堤の櫻
大町桂月
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【テキスト中に現れる記号について】
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(例)[#地から1字上げ](大正五年)
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)わざ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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花に忙しき春哉。裸男ひとりにて、新宿追分より京王電車に乘りて、調布に下る。
南を指して行く。多摩右岸一帶の丘陵低く横はる。大山を左翼として、丹澤の連山その上に遙か也。十數町にして、多摩川に達す。前岸に櫻花の連なるを見る。これ近年櫻の名所となりたる菅の堤也。矢野口の渡に至れば、渡船あるかと思ひの外、土橋かゝりて、一錢五厘の橋錢を取る。上流の青梅の萬年橋より、下流の六郷橋までの間、多摩川に往來を通ずるは、すべてみな渡船なるに、こゝのみに橋ありて單調を破る。いづれ毎年少なくとも一度は流さるべけれと、船と船頭とに要する金を差引けば、さまで損にもならざるべし。而して行人に取りては、船より橋が、ずつと便利なり。氣が利きたるかなと感服す。
堤に上りて、下流さして行く。櫻は一列にして、二三十町もつゞく。樹はまだ
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