点、1−2−22]甚しく、山風加はりて、窓を打つ音物凄し。向側の妓樓にて、絲肉の聲、盛んに起る。宿の娘に問へば、この地に二人の老いたる藝者あり、東京より來れるなりといふ。
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山里の蘇小老いたり春の雨
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 雨の寂しきに、用事仕舞ひたらば、話しに來ずやと言ひたるを、まことに受けて、宿の娘の、年十五六ばかりなるが、茶を入れかへて、持ち來たる。浴後、白粉淡く施したれば、別人の觀あり。同胞三人、上の姉は、家に在りて養子を迎へ、中の姉は東京に出で居れり。妾も二三月の後に、東京に行かむといふ。良縁ありたるにやと問へば、唯※[#二の字点、1−2−22]かぶり振る。
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こちら向け山物凄き夜の雨
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 これは、『こちら向け我も寂しき秋の暮』の出來損ひ也。澤田子側より難じて曰く、その句には季が無いと。われ戯れに答へて曰く、本當に氣が有つてたまるものかと、澤田子噴飯す。この洒落、娘には分りしや否や知らねど、同じく笑ひを添へぬ。
 明くれば、風雨名殘なし。八州の野。蒼茫として、脚底に横はる。
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俊鶻の
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