して、ころ/\と轉がり來たる。あはやと思ふ間に、余の體に落ち重なり、余も共に轉ぶ。下に小牛の如き岩あり。之に當りては大變なりと、すばやく足を以て其岩を踏み、身體しばらく餘裕を得て、傍らの樹につかまりて、余等二人は止まることを得たれど、その餘勢は岩に傳はりて、ころび始めぬ。あはれや石に手なし。木につかまること能はず。見る/\、樹を裂き、枝をくだき、すさまじき音して下りゆきて、他の巖と鬪ひて、雲底に火花を散らすなど、壯觀云はむ方なし。われら始めて生きかへりたる心地して、口言ふこと能はず、體動くこと能はず、相顧みて茫然として佇立せしが、果ては谷底に落ちたるにや、岩の響全く聞えずなりぬ。われら荊棘を排し、榛莽をひらきて、漸く路を得て下る。清水の滴る處あり。これ有名なるみなの川の源なり。一首を作る。
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雲の上の高根をよそにみなの川
  落ちて下りて淵となるらむ
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 陰雲遂に雨をかもして、冷氣雨と共に肌に徹す。一難わづかにのがれて、又一難來たる。洵にさん/″\な目に逢ひたり。喬杉の下の險路を一呼して下り、薄暮、結束屋に達す。夜に入りて、雨益※[#二の字
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