清水、堤臺、中野臺、吉春、谷津、五木、岩名、築比地、是れ也。築比地は、少し離れて利根川の右岸に在り。他の七村は、沼をめぐる崖下に在り。渡舟を招きて、岩名村にわたる。中流微雨の中に顧望す、幽にして靜なる哉。八村の中、岩名は土地高燥、江戸川と座生沼とに挾まれて、茅屋ぽつ/\あるのみにて、幾んど行人なき塵外の別天地、伸ばさば一方里もあるべき處、見る限り、行く限り、すべて桃花に埋めらる。實に天下の壯觀也。越ヶ谷や、中山や、市川や、こゝを見れば何でも無し。斷言す、野田の桃を見ずんば、未だ桃花の觀を談ずべからざる也。
堤上に出づれば、江戸川、溶々として流る。對岸一面の桃花は、八村の中の築比地也。白帆、その間を往來して、一種の趣を添ふ。堤つきて、人家の間に入り、新宿《しんしゆく》の渡をわたる。東京の新宿は、しんじゆくと濁れど、こゝは、しんしゆくと澄みて訓む。西金野井村に至る。森をひかへ、川に接して、香取祠あり。土人、かんどりと訓む。入口の前に、大なる欅あり。まはり、六抱へに餘りて、且つ高く、堂々たる者也。神額は蒼海伯の書、石碑に本居豐頴氏が神司の功勞をのべたる文をきざめり。
川俣東京間を往復する
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