の處にかある。路もせに散りけむ山櫻も既に枯れつくしぬ。星霜こゝに八百年。將軍の昔を問へば、松籟むなしく謖々たり。
八 湯本温泉
濱街道唯一の温泉場、兼ねて唯一の温柔郷たる湯本温泉は、小山の間にある別天地也。汽車この地を過ぎ、石炭坑數箇處この附近に發見せられ、その機械場、常に煤煙を吐くに至りて、風致頓に俗了せり。されど、市街中に崛起せる觀音山にのぼれば、矚目頗る閑雅也。數十の温泉宿、悉く脚下にあり。東山逶※[#「二点しんにょう+施のつくり」、第3水準1−92−52]として、恰も畫けるが如し。
『送りませうかよ、天王崎へ。それで足らずば、船尾まで』とは、都にゆく客を送るなるべし。妓樓市街の中にありて、宿屋より遙に立派なるもの多かりしが、福島縣下は妓樓の市街中にあるを禁じたるを以て、四軒まで減じ居りし妓樓はたゞ一軒となりて、市街の外に移りぬ。妓樓は變じて宿屋となりぬ。而して藝妓の數、娼妓に幾倍するに至れりとかや。
美人欄によりて一高樓を指して曰く、もとこれ妓館也。今もなほ記す。去年の春の暮、そこの妓館の一遊女、美にして利口なりしも、男に惚れてはのろき女性のならはし、男の
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