遠く天に接す。富津の三砲臺は、恰も巨船の如し。富士を盟主として、十三州の名山、悉く寸眸に收まる。安房、上總、下總、相模、武藏、上野、下野、常陸が所謂關八州也。天城山にて伊豆を見、富士山にて駿河甲斐を見、淺間山にて信濃を見、三國山にて越後を見る。眼界の及ぶ所都合十三州也。横須賀は近く瓦鱗にあらはれ、東京は遠く烟突の煙にあらはる。白帆坐し、汽船走る。伊豆の大島は、海上に長鯨の如く横はる。斜陽、夏は富士の右に入り、冬は富士の左に入る。九十九谷を奇觀とすれば、鳥居崎は壯觀也。九十九谷と鳥居崎とを并せ得て、鹿野山の眺望は天下の絶景也。上町に於ける旅館の眺望も、鳥居崎に彷彿たるものあり。世に眺望の佳なる山は少なからざれども、多くは足を停むべき設備なし。適※[#二の字点、1−2−22]之あるも、掛茶屋ぐらゐのもの也。旅館の樓上、杯を含んで十三州を見渡すの快觀は、鹿野山の外、幾んど其類を見ざる也。
七 神木の烏
鹿野山は砂の山也。どの方面を上下しても、一巖をも見る能はず。大瀧を見に行きしに、高さ三四丈もあり。懸崖峭立して幽邃なるが、こゝとても砂の巖也。夏は山百合一面に咲きて、山を白
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