たるが、今はじめて、實際見て、その妙趣を知りぬ。『水明』とは、言ひ得て妙なるかなと、ひそかに感歎す。何處やらにて、伯勞鳴く。きび/\して、氣持よき聲也。
 余の思ひは、四百年の昔に馳せぬ。里見氏は、前後二度こゝにて北條と戰ひて、二度とも大敗せり。敗れたるが故に、云ふに非ず。こゝは、守るには不利なる地也。鎌倉の如きも、三方は山に圍まれ、一方は海に面して、要害のやうなるが、實は要害にあらず。前北條氏の末路以來、鎌倉に據りしものは、前後何人となく、みな破られたり。鎌倉は、守り口、七つもあり。多くの兵を要す。もしも一つの口が破れしならば、本營は、忽ち嚢中の鼠となる也。將棋さすにも、王を一方にとぢこもらせて、金將、桂馬、香車、二三の兵にて守れば、一寸完全なるやうなるも、こは、案外に、もろく敗る。それよりも、王を中央において、まさかの時は、どちらへでも、にぐるやうにするが、却つて安全也。鎌倉に據るは、この王が一隅にとぢこもるが如き也。國府臺は、鎌倉と異なりて、一方に小利根川をひかへたる武總平原中間の岡なり。房總の里見が武相の北條と戰ふには、必ず據りさうな處也。前に小利根川あるは、都合よきやうなれど
前へ 次へ
全12ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング