月の隅田川
大町桂月
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「纏」の「广」に代えて「厂」、200−7]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いよ/\
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荒川堤へとて、川蒸氣に乘りて、隅田川を溯る。つれは福田瑞村なり。われ此の川蒸氣にて隅田川を上下せしこと幾回なるを知らざるが、今瑞村と共とするにつれて、十年の昔の漫ろに偲ばるるかな。
われに中村香峰といふ友ありき。その香峰は、瑞村と友なり。されど瑞村と余とは香峰を介して人物性行を傳聞せしのみにて、未だ相識らざりしなり。
香峰は好男子にして、多情多恨の才子なり。端艇の選手にて、常に墨陀に遊びけるが、その粹な角帽姿は、墨陀の教坊を動かしぬ。名たゝる美人に思はれて契りかはしけるが、いよ/\卒業の曉に到れば、浮世の風は二人につらし。美人の親は香峰の貧なるを嫌ひ、香峰の親は美人の素性の賤しきを嫌ひて、良縁あはや破れむとす。瑞村は侠骨と金とを以てし、余は
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