貧なるまゝに、たゞ舌を以てして、彼此の間に周旋して、事やうやく※[#「纏」の「广」に代えて「厂」、200−7]まりぬ。而して瑞村と余とは、未だ相逢ふの期なかりしなり。
都の殘暑をよそにせる水郷の別世界に、香峰は瑞村と余とを呼ぶ。勞を謝せむとするなり。兼て未見の知己なる端村[#「端村」はママ]と余とを相逢はせむとするなり。溶々たる隅田川の流れ、櫻の葉越しに見えて、樓上風いとすゞし。はじめて瑞村と相逢ふ。互に胸襟を開きて、謂はゆる一見舊知の如し。三人とも娯樂は碁に於て相一致す。負けのきにて碁を鬪はす。いつもの間にやら、杯盤既に運ばれて、例の美人しきりに酒を侑む。日暮れて、興ます/\酣なり。仰いで明月を見る。此の如きの良夜は得易からず。舟をうかべて夜と共に語りあかさずやと云へば、二人踴躍して應ず。ひとり美人のみは、舟が嫌ひなりとて應ぜず。東坡の赤壁の遊びにも、美人は無かりしやうなり。酒と月とあれば十分なりと、早くあきらめしが、妹は舟に醉はず、侍らせむといふ。妹化粧して來たる。その美、※[#「女+(「第−竹」の「コ」に代えて「ノ」)、「姉」の正字」、201−3]にゆづらず。老いたる舟子一人に
前へ
次へ
全5ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング