けた医師は、検屍の結果後頭部の打撲による脳震盪が死因であると鑑定し、警官達は早速証人の調査にとりかかった。
 最初に訊問を受けた金剛蜻治は、自分達の先輩であり恩師にあたる津田白亭《つだはくてい》が半歳《はんとし》程前にこの岳陰荘を買入れた事、最近川口と二人で岳陰荘の使用を白亭に願い出たところが快く承諾を得たので、当分滞在のつもりで三人して先刻《さっき》ここへ着いたばかりである事、死んだ川口は一行が白亭夫妻に送られて今朝《けさ》東京を発った時から、なにか妙に腑に落ちぬような顔をしてひどく鬱《ふさ》ぎ込んでいたが、それでもこの家へ着いた頃からいくらか元気が出た事、事件の起きた頃には自分は風呂に這入っていた事、尚川口夫婦は二階の二室を使用し自分は別荘番の老夫婦と一緒に階下を使うようになっていた事などを割に落付いた態度で答えた。
 続いて亜太郎の妻不二は、金剛と同じように川口が東京を出た時からの憂鬱について語ったが、夫の事でありながら打明けてくれなかったのでその憂鬱の中味がどんなものであるか少しも判らない事、それでもこの家へ着くと始めて見るこの辺《あたり》の風景が気に入ったのか割に元気になって
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