が非常に妙なことで、とにかくあの事件の起きた日の日没時に、この東室の窓に、実に意外な奴が現れたんです。そいつは、私達にとっても、確かに一驚に値する奴なんだが。特に川口にとってはいけなかったんです。で、吃驚《びっくり》した川口は、思わずよろよろと立上った途端に、左手に持ったままの調色板《パレット》の油壺から零《こぼ》れ落ちた油を、うっかり踏み滑って、後にあった絵具箱へ、後頭部をいやと云う程打ちつけたのです。これが、川口亜太郎の、疑うべきもない直接の死因です」
「一寸待って下さい。……あなたは先刻《さっき》から、何か盛《さかん》に話していられるようだが、私にはさっぱり判りません。先日、私が川口不二を容疑者として連行した時に、あなたは、私が物的証拠を掴んでいないのを責められた。で、恰度あの場合と同様に、いま、あなたの云われる話について、なにか正確な証拠を見せて頂きたい」
「判りました」と大月もいささかムキになった。「必ずお眼に掛けましょう。が、いま直《ただち》にと云う訳には参りません。私の方からお招きに上るまで、待って下さい。必ずお眼に掛けます」
「……」
司法主任は、くるりと後を振り向く
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