四

 その翌日は珍しく上天気だった。
 司法主任を先頭にして数名の警官達がこれでもう何度目かの兇器の捜査にやって来た。
 大月にまでも援助を申出た彼等は、二階の洋服箪笥の隅から階下の台所の流しの下まで、所謂警察式捜査法でバタリピシャリと虱潰《しらみつぶ》しにやり始めた。
 が、今日は殆ど一日かかって、午後の四時頃、とうとう司法主任は歓声を上げた。それは、もういままでに何度も何度も手に取って見ていた筈の、事件の当時亜太郎の屍体の側に転がっていた細長い一個の絵具箱であった。
 慧眼の司法主任は、ついにこの頑丈な木箱の金具のついた隅の方に、はしなくも一点の針で突いたような血痕を発見したのだ。
 主任は、岳陰荘を引挙げながら、勝誇ったように大月へ云った。
「どうやらこれで物的証拠も出来上ったようですな」
 弁護士は軽く笑って受け流した。
 けれどもやがて一行が引挙げてしまうと、なに思ったのか大月はさっさと二階へ上っていった。そして東室の窓を開けると、手摺に腰掛けて、阿呆のように外の景色に見惚《みと》れはじめた。
 いつ見ても、晴れた日の樹海の景色は美しい。細かな、柔
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