でもない。この場合恐らくステッキでも棍棒でも、又花瓶でも木箱でも兇器となり得る。――大月弁護士は日暮時まで、二階の床をコツコツと鳴らし続けていた。
が、やがてどうしたことか急に階段を降りて来ると、別荘番の戸田を大声で呼びつけた。そして頻《しきり》に首を傾《か》しげながら、
「……妙だ……」
「……妙だ……」
と呟きはじめた。
が、やがて安吉老人がやって来ると、幾分|顫《ふる》えを帯びた声で、
「おい君、変なことを訊くがね……二階の東室の窓から、三十|間《けん》程向うに、一寸した木立が見えるだろう?」
「はい」
と安吉老人は恐る恐る答えた。
すると、
「あの木立は、今日、他所《よそ》の木と植替えたのかね?」
「そ、そんな馬鹿な筈はありません。第一、旦那様」と安吉は目を瞠《みは》りながら「あれだけのものを植替えるなんて、とても一日や二日で出来ることではありません」
「ふうム……妙だ」
「ど、どうかいたしましたか? 木でもなくなったんですか?」
「違う……いや確かに妙だ。……時に金剛さんは何処にいる?」
「只今、お風呂でございます」
「そうか」
大月はそのまま二階へ上ってしまった
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