ながら辿り辿りやって来た。見るからに画家らしい二人の男は川口亜太郎とその友人の金剛蜻治《こんごうせいじ》、女は亜太郎の妻|不二《ふじ》、やがて三人が岳陰荘の玄関に着くと、あらかじめ報《しらせ》のあったものと見えて山荘に留守居する年老いた夫婦の者が一行を迎え入れた。
やがて浴室の煙突からは白い煙が立上り、薪を割る斧の音が辺《あたり》の樹海に冴え冴えと響き渡る。けれどもそれから二時間としないうちに、山荘へは黒革の鞄を提げた医者らしい男が慌だしく駈けつけたり、数名の警官が爆音もけたたましくオート・バイを乗りつけたりして、岳陰荘はただならぬ気色《けしき》に包まれてしまった。それはまるで三人の訪問者が、静かな山の家へわざわざ騒ぎの種を持ちこんだようなものだ。
恰度美しい夕暮時で、わけても晴れた日のこの辺りは、西北に聳え立つ御坂《みさか》山脈に焼くような入日を遮《さえぎ》られて、あたりの尾根と云い谷と云い一面の樹海は薄暗《うすやみ》にとざされそれがまた火のような西空の余映を受けて鈍く仄《ほの》赤く生物《いきもの》の毒気のように映えかえり、そこかしこに点々と輝く鏡のような五湖の冷たい水の光を鏤《
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