闖入者
大阪圭吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)岳陰荘《がくいんそう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)取|繞《めぐ》る

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)とみ[#「とみ」に傍点]
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          一

 富士山の北麓、吉田町から南へ一里の裾野の山中に、誰れが建てたのか一軒のものさびた別荘風の館がある。その名を、岳陰荘《がくいんそう》と呼び、灰色の壁に這い拡がった蔦葛《つたかずら》の色も深々と、後方遙かに峨々《がが》たる剣丸尾《けんまるび》の怪異な熔岩台地を背負い、前方に山中湖を取|繞《めぐ》る鬱蒼たる樹海をひかえて、小高い尾根の上に絵のように静まり返っていた。――洋画家の川口亜太郎《かわぐちあたろう》が、辻褄の合わぬ奇妙な一枚の絵を描き残したまま卒然として怪しげな変死を遂げてしまったのは、この静かな山荘の、東に面した二階の一室であった。
 それは春も始めの珍しく晴渡った日の暮近い午後のことである。この辺りにはついぞ見かけぬ三人の若い男女が、赤外線写真のような裾野道をいくつかの荷物を提《さ》げ
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