すが、さりとて、お加減の悪い旦那様を捨てても置かれず、残念ではございましたが、そのまま一旦桜木町の広い通りへ出まして、遠廻りながらそこから自動車を拾って、お宅まで引き返してしまったのでございました。……
あとで考えてみれば、少し無理と思いましても、あの時旦那様だけお返しして、私だけ、直《す》ぐに引っ返してお墓参りをしましたなら、あるいはあの時、人気のない墓地の中で旦那様がご覧になったものを、私も見ることができたかも知れないと、おっかなびっくり考えたものでございますが何分その時は、変だなとは思いながらも、旦那様の御容態の方が心配でしたので、そんな分別《ふんべつ》も出なかったわけでございます。
――さて、御帰宅なさいましてから、旦那様の御加減は間もなくお直りになりましたが、その日から、旦那様の御容子が、少しずつ変わって参ったのでございます。……いつになってもお顔の色は妙に優《すぐ》れず、お眼が血走って、いつもイライラなさっていられるのを見ますと、私共は、まだ本当にお加減はよくなっていられないのだなと、思われたほどでございます。
――そうそう、こんなこともございました。なんでも、いまま
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