ございます。お側にソッと屈《かが》んで見ますと、なんとそれは、右掌の指にからみつくようにして握りしめられた数本の、長い女の髪の毛ではございませんか。そして、おまけにその髪の毛からは、ほのかに、あの懐かしい、日本髪に使う香油の匂いがしているではございませんか……。私はふと無意識で頭をあげました。このお部屋は十畳敷きで、床の間の真向かいの壁よりの所には、なにか取り込み中で、まだ御整理のできていない奥様のお箪笥や鏡台が、遠慮深げに油単《ゆたん》をかけて置かれてあったのでございますが、香油の匂いを嗅いでふと思わず頭をあげた私は、何気なしにその鏡台のほうへ眼をやったのですが、その途端にまたしてもドキンとしたのでございます。――見れば、いままで気づかなかったその鏡台の、燃えるような派手な友禅の鏡台掛けが、艶《つや》めかしくパッと捲《ま》くりあげられたままであり、下の抽斗《ひきだし》が半ば引き出されて、その前に黄楊櫛《つげぐし》が一本投げ出されているではございませんか。思わず立ち上がった私は、鏡台の前へかけよると、屈むようにして、改めてあたりの様子を見廻わしたのでございますが、抽斗の前の畳の上に投げ
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