心に南北に縦走する富士火山脈の主流であって、東に相模灘《さがみなだ》、西に駿河湾を俯瞰しつつ一面の芝草山が馬の背のような際立った分水嶺を形作っているのだが、岳南鉄道株式会社はこの平均標高二千五百|呎《フィート》の馬の背の尾根伝いに山地を買収して、近代的な明るい自動車道《ドライヴ・ウェイ》を切り開き、昔風に言えば関銭を取って自動車旅行者に明快雄大な風景を満喫させようという趣向だった。だから南北約六|哩《マイル》の有料道路《ペイ・ロード》は独立した一個の私線路であって、十国口と箱根口との両端に二ヶ所の停車場《スタンド》があるだけで枝道一本ついてない。しかもその停車場《スタンド》には前述のように道路の上に遮断機が下りていて番人の厳重な看視の下《もと》に切符なしでは一般に通行を許さない。だから途中からこの有料道路《ペイ・ロード》へ乗り込んで走り抜ける訳にも行かなければ、又途中から有料道路《ペイ・ロード》を抜け出して走り去ることも出来っこない。
 もっとも尾根伝いの一本道とは云っても、数|哩《マイル》ぶっ通しの直線道路ではなく、主として娯楽本位の観光道路だから、直線そのものの美しさも旅行者に倦怠
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