行ってしまいはせんかな?」
「大丈夫です。遮断機には鉄の芯がはいっていますから、私みたいに上げさえしなければ絶対に通れません」
「そうか。いや、そいつア面白い。つまり関所止め、と云う寸法だね。まだクーペは、向うへは着かないだろうね?」
「半分も行かないでしょう」
「よし。じゃあ直ぐ電話してくれ給え。絶対に遮断機を上げないようにね」
 事務員は停車場《スタンド》の中へ馳け込んで行った。
 間もなく電話のベルが甲高く鳴り響き、壊れかかった遮断機が上って、瀕死の怪我人を乗せた紳士の幌型自動車《フェートン》は、深夜の有料道路《ペイ・ロード》を箱根峠めがけてまっしぐらに疾走しはじめた。

          三

 さて、読者諸君の大半は、箱根――十国間の自動車専用有料道路《ドライヴィング・ペイ・ロード》なるものがどのような性質を持っているか、既に御承知の事とは思うが、これから数分後に起った異様な事件を正確に理解して戴くために、二、三簡単な説明をさして戴かねばならない。
 いったいこの有料道路《ペイ・ロード》の敷設されている十国峠と箱根峠とを結ぶ山脈線は、伊豆半島のつけ[#「つけ」に傍点]根を中
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